無節操にショートショートetc.を収録
『つばさ』
つばさをなくしたら、そらに帰れなくなるの
拙い口調で言って、それは私の手を解いた。
「空には何がある?」
解放
「本当に?別の呪縛があるだけなんじゃないか。
空気の抵抗に、酸素の薄さ。重力。天敵には見つかりやすい。」
ちがう
あの場所ならあなたの手は届かないでしょう?
私が唯一鎖なのであり他に自らを縛るものなんてないのだと言って、彼女は大人の顔をして去った。
それは多分、泣きたいくらいの告白だった。
『一枚の写真』
…その時計が止まる瞬間をよく覚えている。
一人きりしかいない部屋で、動かなくなった時計。私は世界が止まったのだと思った。
身じろぎせず、迫ってくるようなアンティーク。
部屋の記憶はその瞬間、色あせたセピア色となる。
ぱしゃ。
「ただいま」
世界を動かした人の手による写真は、今も机の奥にしまってある。
『永遠について』
ともや。
なんだよ。
永遠ってあると思う?
ああ。
ふうん。
お前はどう思ってるんだ。
ない。
ロマンのねえ女。
今を生きるのは今しかないからよ。
花火がいつも空にぶら下がってたり月が欠けることがなかったらこの世は半分も面白くない。
俺らは永遠をはかれねえよ。
じゃあ、永遠があるなんて言えない。
でも感じることはできる。触れられなくとも。
詭弁ね。
変わらないと信じていられるものが一つくらいないと俺は生きてゆかれない。
何が変わらないの。
…男は、ふわりと笑う。コつりと当たった指が、女の心臓を指す。
そして指は向きを変えて、彼自身の心臓を指す。
やっぱり愛なんじゃないの?
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