春、花盛りの季節だった。それなのに、それを散らしてしまおうとでもいうような激しい雨の日に彼女に出会った。ずぶぬれの青。
それが彼女に最初に抱いた印象。
「風邪ひくよ」
差し出す黄色の傘を、うつろな瞳が見上げた。ガラス玉みたい。人形のように、この子の中身は空っぽだと思った。
「いらない」
ガラス玉にそれでも自分の存在は届いていたらしい。寄越された声は、か細かった。
「オレが見える?」
「見える」
「オレにも君が見えるよ」
「だからなに」
「君の名前は」
「ギ、ル」
「オレはチット。さあ、これでオレ達はお知り合い。おせっかいなオレは雨に濡れ続ける知り合いの、しかもかわいい女の子は放っておけない性質なんだ」
攫うようにその体を抱き上げると、驚きに見開かれた目は淀みが晴れていた。それがかわいいと思った。なんて、軽いんだろう。
少女は抵抗する力も無いのか、動かない。ただ、掠れた声だけ発した。
「どこへ」
「我々の出会いを記念してご飯でも食べに行きましょうか、ギル」
「ナン、パ?」
「そだよ〜」
「わたしは、汚れているのに」
「綺麗だけど?」
「何も知らないくせに」
「じゃあ教えてよ」
「・・・お節介」
「褒め言葉かな?」
彼女の持つ暗さに惹かれたのか。何もないような透明さに惹かれたのか。
惚れっぽいオレは、雨の中で立ち尽くす青い少女になんとなく惚れて、それから今まで一緒にいる。
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