「部屋に鍵が付いてないの!?」
「付いてないといけないのか?」
あれからフィーと話す機会が増えた。
まあ、冷たくされるよりはいいのではないかと私は思う。おずおずと喋るフィーは可愛い。しかしよく分かったのは、彼女のロイさんへの信頼。
「フィー、あんた貞操の危機って知っている?」
「危機?大丈夫だ、私は人の気配に聡いから侵入者がいれば起きる」
「ロイさんに寝込み襲われたらどうするのよ〜!!」
「ロイ?ああ、あいつは私を弟だと思ってるから平気だ」
あなたが寝ている間に愛おしそうに額にキスしてましたが。
年齢的にもそろそろやばいんじゃないかなあ。
「フィー」
「なんだ」
「鍵屋さんに行きましょう、私がお金を出すから」
「そんな、悪いし」
「・・・宝石の安全度が上がるわよー?」
「いいのか?」
「任せて、私が守るから」
「・・・レオナ、フィーとなに話してるの?」
「彼女の安全について」
そう答えると、ロイさんはきょとんとした。無垢な顔しちゃって。
「フィーなら僕が守るのに」
・・・なるほど彼はそう考えているのか。
「いえ、あなたから守るんです」
「・・・レオナ」
私の言葉にようやく分かったようで、彼は複雑な表情をする。撓んだ柳眉、結ばれた口元。少し潤んだ目。
悩ましげな美青年より、私はフィーのほうが好きだから平気。
ふとフィーを見ると、ロイの目をじっと見ている。
「フィー、見とれちゃ駄目。」
「あれ、私ロイ見てた?」
無意識か。二人って実は、
「実は両思いと見せかけてたぶんフィーはロイ兄ちゃんの目が欲しいんだよね」
カウンターでお茶を飲んでいたシライがぽつりと言った。
「ロイさんって目を抜かれたい願望でもあるんですか、Mですか」
「そんなことないけど。レオナ、なんか冷たくなったよね?」
ロイさんが苦笑した。
これくらいの意地悪は許されてもいい。ロイさんはフィーと両思いになれる可能性があるのだから。
「恋で破れても、友人としては負けないくらいになりますから!」
「なんか分からないがレオナは格好いいな」
「でしょう」
フィーはにこにこしている。告白する前、彼女がこんな顔で私を見たことがあっただろうか?すごく感慨深いものを感じて、思わず頭を撫でると、気持ちよさそうにした。これがあの生意気なフィーだろうか。
「・・・ちょっとフィー、買い物行ってきて」
「了解だ」
ロイさんの言葉にフィーはすたすた出て行った。
「レオナ」
「なんですか」
実は彼は独占欲が強そうだから、私へ牽制でも仕掛けるつもりだろうか。一瞬、そう思ったけれど彼が言ったのは一言で。
「・・・フィーをよろしく」
「・・・ロイさん?」
「フィーが女性と知っている女友達、って今のフィーにとっては希少なんだ。母ももういないし・・・いろいろ相談に乗ってあげてくれると嬉しい」
ロイさんは微笑する。
「フィーは不器用なところもあって、付き合いづらく感じることもあるだろうけど真摯なんだ」
「・・・知ってますよ」
彼女を思っているだろう、彼の目は愛おしさに満ちている。確かにこの人にとって、フィーはとても大切な存在なのだと思った。
でも、だからこそ。
「フィーの部屋の鍵は外から開けないものにしますから」
「なるほど、さっき話していたのはそのことなんだね」
「扉をぶち破るくらいの覚悟が出来てからフィーにアタックしてくださいね〜」
私は笑う。
「ロイさん、アクアマリンの石言葉って知ってますよね?」
「・・・勇敢、ていうのがあったっけ」
「その瞳の色に恥じぬ人になってください」
「レオナは僕をどうしたいんだか」
複雑なんですよ。二人を見てるともやもやするから応援したいけど、フィーに手を出して欲しくないような。
「さあどうでしょう。私は、なんかフィーのお母さんみたいな気分?」
「保護者が増えたってことか・・・」
ロイさんは溜息をついた。
TOP