「クェイン!!」
闇は順調に数を減らしている。それは子どものように飛び込んできたこの男の功績が大きい。先ごろ騎士隊長となったこの男。
「今から全員外で演習をしよう!」
「何故この寒いのにわざわざ」
「寒いからこそだ」
・・・外は吹雪だ。
「私は凍死したくないんだ」
「お前がこれくらいで死ぬんなら願ったり叶ったりじゃないか。さあ、騎士を集めろ、俺は行って来る」
「待っ・・・」
行ってしまった。
「愚孫がご迷惑をかけますなあ」
たっぷり着込んだ神官長がどこからか姿をにゅっと現した。
「慣れていますから」
というより諦めている。寝不足の頭を抱えつつふらりと立ち上がった。
「おや、行くのですか」
「・・・言われたとおりにしないと後が怖いので」
明日の朝に、雪だるまが自室の扉を塞いでいたりしかねない。
「いってらっしゃい」
老人は微笑んで見送った。
 
 
「あらクェイン」
部屋の外に出ると、ソラが通路で窓の外を見ていた。
「おはようございます」
「おはよう」
彼女は花が咲くみたいに笑う。
「ヴィーって本当、子どもみたいなところがあるのよねえ」
彼女の視線を追うと、窓の外で巨大な雪玉を作る友人の姿。あれで雪だるまでも作ろうものなら2mは優に超しそうだ。
「というか、ガキだな」
神殿に来た頃は、どこか冷たい印象があるくらいだったのに、今はもう。
「クェインも遊んできなさいよ」
「・・・ソラは?」
「後で気が向いたらいくわ」
恐る恐る問うと、恐怖の答えが返ってきた。これは、絶対に来るだろう。
友人は知らないだろうが、たおやかな様子を装ったこの女は『雪の女王』の異名があるほど雪合戦において不敗の将だ。彼女によって戦闘不能に陥った騎士が昨年何人いたか思い出したくない。事後には、「鍛え方が足りないんじゃないかしら」とふんわり笑っていたっけ。
「だから止めようとしたのに」
あの馬鹿は人の話も聞かずに、全く何考えてるんだか・・・いや、何も考えていないに違いない。
「なあに?」
「・・・なんでもない。俺は騎士を集めてくる」
ソラは多分面白がって、ヴィーと敵対するだろう。今から始まる合戦が熾烈を極めることは想像に難くない。
死なば諸共、だ。神殿騎士全員を巻き添えにしてやろう。
何故こんな子どもの遊びで命懸けにならねばならないのだろうか。
半ばやけになって、再び歩き出した。

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