極めて例外的魔法使いと言える人が私の主だ。
私の主は、魔に契約を願うなんて殊勝な性情ではなかった。赤ん坊だった頃以来久しぶりに会ったあの日の主の言葉は今も覚えている。とてもいい笑顔を浮かべていた。
「契約結ばなきゃ殺すよ?名乗れ」
私は魔に契約を強制をした人間を他に知らない。強制される歴史上初の魔になどなったとて幸福とは思えない。
何故強制に従ったか。私の主の魔力は馬鹿でかいのだ。巨大な器の持ち主。しかもそれをコントロールするとなると手に負えない。仮にもまである私が本契約を果たしていない人間一人に戦って負けると危機を抱いたほどだ。それほど強くてなお理を曲げる力を欲するのだから人とは強欲なものだとつくづく思ったのだが。
「え、欲しいもの〜?世界?あ、永遠の命もいいねえ。全知の神様になれたら満足なんだけど」
一度戯れに主が欲するものを尋ねてみた時には思った。人が強欲なのではない。主がおそらくとりわけ強欲なのだ。
「何びびってるの、アウラちゃん。いいじゃん、いろんなもの思い通りに動かせたら楽しそうだし全ての知識が欲しいと思わない?それを知り尽くすための時間も欲しい。」
「本気ですか」
「…冗談。そんなの、正直つまんないでしょ?自分で勝ち得るから面白いんじゃん。てかオレさ〜、本当は心底から欲しいものってできたことないんだよね〜」
けらけら笑う主。そういわれてみればこの主はあらゆるものに執着が薄い。人にも、者にも。恋人はころころと変わり、大抵のものは使い捨てだ。飽きっぽいともいえる。ああ、そういえば。
「私と契約して、魔法を使いたいというのは心底の欲求に従ったことではなかったのですか?」
「ま、出来なきゃ出来ないでそんなに固執はしなかったんじゃないかな」
…あの時主の殺気に当てられて、生きてきた中で一番怖い想いをした私に謝ってくれ。
「万一断られたらアウラちゃん葬ってすっきりしてただろうし」
「うわ、最悪」
どんより落ち込む私をよそに、主は天井を見つめて溜息をついた。
「なんか転がってないかな〜、夢中になれるもの」
「そんな都合よく落ちてるわけ無いじゃないですかぁ…」
大体この主が夢中になるってどんなものだ。
こんな会話が交わされたのは、都合良く行き場を無くしていたらしいよく分からない少女を主が満足げに拾ってくる少し前のことだった。
TOP