シンデレラ風パロディ

epilogue



「盛況なことだ」

 群集の一角で、目深に被ったフード姿のために周りから浮き立って見える怪しい人物は、一人新王と王妃の並ぶ窓を見上げ、ふとそこへ向ける目を眇めます。なにやらその人物の気分は喜びに包まれた周囲と異なり複雑なものであるらしく、なんだか悶々とした雰囲気がいっそう周りから浮いて目立っていることを分かっていないようです。

「それにしてもちょっと眩しいな、これは」

やがて、窓辺に立つ王子の顔を見定めた時、その人物は呆気にとられた顔で固まってしまいました。
 そこにいたのは長い間『彼女』の思い描いた人ではなかったためです。

「え、あれは、ナ」

「ナンテス」
「そうそう、なんであいつが・・・って、え?」

 叫ぼうとした言葉を先に言われ、不審者は混乱して辺りを見回しました。そう、見渡してそこにあるのはただひたすら人で埋め尽くされたいつもの広場。

「空耳か・・・」
 どこかほっとしたように溜息をついて俯いた不審者はしかし、自分の影に別の影が交錯しているのに気付いてばっ、と顔を上げました。

「ようやく、見つけた」
「いたか。探したぞ」

「げ」
 振り向いて、ひくり、とフードの中の顔は顰められました。
 周囲が自然と開いていた空間の中、堂々と立っているのは二人の青年。

「久しぶり、あれからもう2年か。・・・君のしたことについては父上から聞いたよ」
「仮にも君を慕う人間に何もかも黙って行ってしまったなんて薄情なものだ」

 ひょい、と一人の手にフードを掴む手を捕らわれ、もう一人にそのフードを剥がされて現れたのは相変わらずやせっぽちの、けれど少し髪の伸びた一人の少女。現れたその顔を顰めた少女と裏腹に、二人の青年はにっこりと少女に笑顔を向けるとかわるがわる話し始めました。

「やっぱり君だった。・・・まったく、君以外の女性であのあまりに小さな靴を履ける人がいるなんて」

「ナンテスまで無理やり巻き込んで、兄弟総出で『この靴を履ける女性以外を妻にはしない』などと言ったのが裏目に出たな。なかなか見つからない魔法使いの家に篭っているらしいお前を炙り出すのにはいい手と思ったんだが」

「本当に。狙い通り王位継承と世継ぎのために国をあげて一人の女の子を探す大騒動になったはいいものの、引っ込みがつかなくなった。触れどおりにあの靴を履けた子が現れたとなれば、誰か娶って王位につかないわけには行かないのに相手は君じゃないんだ、困ったよ」

「まあ、結果的に我侭な兄達に翻弄された可哀想な弟君に幸運にも良縁をもたらすことなったから全てよし、と言えなくもないが。いやはや、お前と随分争ったのも全て、こうなるととんだ茶番だったな」

「・・・茶番は茶番でも命がけのね」

「それはまあお互い様だろう」

「まあいいか。これで後ろ髪引かれることなく王族からも去れるし身軽なものだ」

「ああ、君を求め続けるにはちょうどよい。君に背負わせるものはもうないからね」



 そう。今、静かに向き合っているのは、長らくその身を縛っていたものから解放された自由な三人の若者です。

「あんたら、馬鹿か?」
「馬鹿で結構」
「お前にもすぐ同じ気持ちを味合わせてやろう」

 肩をすくめる青年たちに脱力して少女は苦笑しました。

そんな彼らのいる広場で王候補の国王と王妃の結婚を祝う音楽がやがて鳴り響き、群集は喜びのまま手に手をとって踊りだしました。見上げてくる少女に、二人の青年も周りに倣うようにして彼女に手を差し伸べます。

「さあフィー」
「なあシンデレラ」

 あの仰々しくも煌びやかな服でないありふれた質素な服をまとっていても、二人の仕草はそれはそれは見蕩れるような軽やかで優雅なものでありました。

「「どうぞ私とワルツを」」

 選択を問う重なった二つの美麗な声が誰のものであったのか、お分かりですね。

はて、シンデレラは誰を選んだのか、それとも礼を取る二人の隙をうってまたもや元気に逃げ出したのか。

 やっぱりそれは、あなたさまのお気に召すまま、と申し上げておきましょう。

・・・The End
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