シンデレラ風パロディ

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10.

「あれ、おかしいなあ」

 シンデレラが去った部屋に、訪れた人物が一人。重たげな真っ赤なマントに、金の王冠を嵌めた頭。侍従の部屋の一室までわざわざ足を踏み入れるはずが無いような豪奢な服をまとった見るからに王様なその人物は呟きました。

「シオンか?」

 部屋に感じられる、微かな魔法の残滓があるのです。

「でも、まさかなあ。あのシオンがわざわざ出向いてくるとは思えないし。じゃあ本人が夜逃げしたとか?城にいるはずなのに来て以来顔見てなかったしなあ」

 ぶつぶつと王様はつぶやきました。そこへ。

「…え、父上?」
「うわ!なんだ、我が息子よ。突然背後に立つとはいただけない」

 振り向くと彼の息子が一人。

「さっきから呼びかけていたと言うのに、まったくあなたって人は。毎度毎度どうやって護衛、なによりあの母上の目を逃れているのです?なぜこんなところへ?」
「お前こそなぜここへ」
「質問に質問で返すのはマナー違反ですよ」
「は。夜這いか!そうか、お前ももうそんな年になったのかあ」
「違いますよ!もう朝ですし、昨日ここの部屋の主が、命の危機だの夜逃げがどうのと口走っていたので侍従と女官を統括する身として確認に来たまでです」

 茶色の目を胡乱気に細めて、ナンテス王子は相手を睨みつけました。彼の父である王様は、その視線を受けてもちらと動じるそぶりがありません。

「お前は相変わらず色気がないなあ…まあロイや僕なんて見て育ったら、大抵の女性はもう眼中に入らなくなるのも分かるけど」
「僕としてはあなたのような人とあの兄上がそっくりなのが、どうも気に入りませんが。…ねえ、父上」
「うん?」
「あんまり人を弄ぶのも大概にしないと、いつか馬に蹴られますよ」

 ナンテス王子の何かを含めた物言いに、王様がぽかん、としていると、王子は空っぽな部屋を一瞥したあとこんなことを言って去りました。

「まあ、あなたの計画はすでに台無しになったのかも知れませんが。今日の披露宴が楽しみですね?」

 一人残された王様は。
「反抗期…本当に大きくなったなあ、ナンテス。昔は僕にすがり付いてぴいぴい泣いてた可愛い子だったのに」
 そう言って、少し悲しげに肩を落としたのでした。しかしすぐに気を取り直したふうに背筋を伸ばすと、王様もまた、ここを去ることにしました。

「さて。どうしたものだろうね、シオン?」
 と呟いて。


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