シンデレラ風パロディ
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12.
「あなたの一番の魅力は?」
「髪、でしょうか」
「ロイに劣るわね、失格」
見事なハニーブロンドを鼻で笑われ、少女は泣く泣くその場を去りました。
「あなたのお目当ては?」
「な、ナンテス王子様です」
「ナンテスに挑戦しようという心意気は素晴らしいけど素直に答えているようじゃあの子と付き合えないのよ、失格」
「あなたにとって譲れないものは?」
「家族です」
「じゃあ、家に帰ったほうがいいのではなくて?失格」
謁見の部屋の玉座に向かって並ぶ少女は次々と失格を出され下がっていきます。部屋の扉が開いたり閉じたりとせわしないことこの上ありません。
「…お母様」
「なあに、私の満点合格の息子?」
「先ほどから屁理屈ばかり仰ってともかく落とそうとなさっていませんか…20人に1人ほどしか合格者がいないように思えるのですが」
「そんなことないわ。旦那様がまず君が選別しろって仰るから張り切って息子の未来のお嫁さん、ひいては我が娘を選ぼうとしているだけじゃないの。私を信頼してくれないの、ロイ?」
悲しげに美しいかんばせを曇らせる母親を相手に、柳眉を撓めてロイ王子は溜息をつきました。王妃は単純に現状を楽しんでいるようにしか見えません。この3人の息子がいると思えないほどたいそう可愛らしい黒髪にばら色の頬をした王妃、実に人が悪いのです。
「あらあら、疲れてるならロイ、下がってていいのよ。あなたの胸元の花を捧げるお相手でも探していらっしゃいな?」
制止をかける自分がいなければ何が起こるのやら見当もつきませんが、実際日も昇らない早朝から王妃に付き合わされて疲れていたロイ王子は、
「花はともかく、確かに少し疲れました。…もうしばらくしたら退出いたします」
と言いました。
そろそろ次の合格者が出てもいい頃合でしたから、それを見てから彼は休むつもりでした。忙しさに追われてナンテスからまだ王の望んでいるであろう女性の特徴を聞いていない彼は、一人でも多く候補者を見ておこうと思ったのです。もっともこの調子だと、既に彼の母によって后選びから落とされている可能性もありましたが。
王妃はりん、と合図の鈴を鳴らしました。扉がまた、開きます。
次々入れ替わる女性たち、また失格、失格、失格…。やはりもう退出しようか、とロイ王子が思案しだした頃になって、彼女はやってきました。
「失礼いたします」
凛とした空気をまとい新たにやって来た后候補。ただその表情をよく見ると、どこかやけになっているような気配が読めたかもしれません。
「あら…」
王妃は、その女性の耳元を彩る白百合に目を細めました。なぜならそれは王妃が愛でるためだけに作られたこの城の庭にしかない美しい白い百合。そんなものを持っているとしたら、彼女の息子たちの誰かでしかありえないのですから。
一方、ロイ王子は固まりました。淡い青のドレスを纏い、薄く化粧もしているようでしたし髪も長いけれど、その少女はまるで彼の知っている人と瓜二つ。
「フィー?」
隣で息子があげる微かな声のどこか切なげな様子に、王妃は眉を上げました。こんな息子の声を初めて耳にしたからです。けれどあくまで静かに、王妃は少女に問いました。
「…名乗りなさいな」
「フィオナと申します」
「そう。ではフィオナ、その白百合は誰に?」
「名も知らぬお方に。捨てるにはあまりに忍びないほどこの百合は美しいので、風習を知らぬわけではありませんがこのまま参りました。この場にそぐわぬ失礼をお許しください」
胸元の花を耳に飾れば、それは告白と同意という風習がこの国にはありました。それを受けながら、そのまま后選びの場に顔を出すなど無礼者と見られても使用がないのです。
「許しません」
「…分かりました。申し訳ございません、では、私はこれで…」
王妃の言葉に、むしろどこかほっとした様子でいそいそと出て行こうとする少女を、微笑んだ王妃が呼び止めました。
「あら、あなたが通るのは来た扉でなく、隣の扉よ?」
「え…?」
「ふふ、許さないと言うのはあなたでなくて気の早い私の息子の誰かさん。合格よ。隣にある宴の部屋へ、いらっしゃって」
少女は事態についていけない様子で、目を瞬かせていました。
「あらあら。ここには無理やり連れられたのであってあなた自身は私の息子たちにはちらとも関心が無いとでもおっしゃるつもりかしら?」
「いえそのようなことは」
一瞬図星をさされた顔をした少女でしたが、すぐに表情を引き締めて首を振る様子を王妃は楽しげに見つめました。
「では、喜びのあまりびっくりなさったのね?ほら、ロイナス、呆けてないで可愛い彼女をご案内しなさいな」
「…結構です、そんな恐れ多い」
少女が断りかけると王妃はにっこりとこう仰いました。
「この子じゃ不満かしら?その白百合の持ち主のほうがよい?」
その言葉に、ロイ王子は一瞬そのシンメトリーに整った顔を顰めました。睨まれたように感じたのか、少女は焦った様子で弁解を始めました。
「そ、そんな訳ではなくて。すぐそこです、自分で歩けますから、その」
「…私もちょうど、休もうと思っておりましたから。さあ、お手を」
白の衣装に身を包んだ王子は流麗な仕草で、しかし有無を言わさず少女の手をとると、黙ったまま隣の部屋へ向かいました。
残された王妃は。
「三角関係かしら?楽しそうねえ」
と、にこにこ笑っておりました。
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